虫歯は小さい最初のうちは何も症状が出ないことが多いですが、大きくなって歯の神経(正確には歯髄といいます)に到達すると、強い痛みが出てくるようになります。そうなると神経を取らなければなりません。これを根管治療といいます。 歯の神経というのは実は神経だけではなく血管やリンパ管などの集まった組織ですが、痛みしか感じないというそれはそれは厄介な代物で、もちろん神経を取るときは麻酔が必要になります。 麻酔を効かせたあとに神経を取るのですが、これがまた歯科治療の中で一番難しい治療のひとつです。 特に奥歯の場合は根が3つもありそして根の形態がとても複雑で、また口の奥で治療が困難なことも多く、患者さんも歯科医もとても苦労するものです。丁寧にやると最低でも奥歯では4,5回もかかります。 難しい場合はもっと(10回くらい)かかるときもあるんです。リーマーという細い針を根の中に通して神経をとります。根の先端まで針を入れて神経をとるのですがこれが口で言うのは簡単ですが、実際にはとても難しい作業です。1回では取りきれなくて何回かかかることもあります。
何とか神経を取ったとしますが、じつは神経をとっただけでは不十分で、その後はその根の中を大きく広げて充填材をつめなければなりません。 なぜそうしなければならないかというと、神経を取っただけで根の中を空洞にしておくと、口の中のばい菌が入ってそれが根の中を伝わってあごの骨の方まで到達し、あごの骨がばい菌にやられてしまうからです。 よく虫歯のせいで顔を腫らした人を見たことがあると思いますが(最近はそこまでひどい人はあまりいないかな?)、これはあごの骨がばい菌に感染したためで、ほとんどが根からばい菌が入ったことが原因によるものです。昔はこれで死ぬ人もいたそうですが、今は抗生剤が発達していてそんなことはまずありません。 しかしそうはいっても相当痛く,腫れてかなり苦痛がありますので、そんなことにはならないように根の治療を最後まで行わなくてはなりません。話を元に戻しますが、神経をとった後根の中を大きく広げるために根の治療が何度か続きます。きちんと根の長さを測って根の先端まで広げてやるのです。 患者さんにしてみればもう痛くもないのにいつまでも何をやっているのだろう?と思うかもしれませんが、ここで手を抜くとさっき言ったようなことが起きることもあるんですね。だからここは歯科医も患者さんも辛抱のしどころだと思います。そうして根の中の拡大作業が終わったら、樹脂で中を封鎖するということをやってようやく根の治療が終了します。 神経を取ってしまった歯はたいてい虫歯の部分が大きく、そのままでは冠をかぶせることができないことが多いので、根の治療が終わったらまず土台を入れてから冠をかぶせることになります。 まれに歯がたくさん残っていればそのまま穴をふさいで終わることもあります。
これで神経の治療から始まった大きな虫歯の治療がようやく完了することになります。最初から数えて少なくとも6、7回かかるでしょうか。考えてみてください。もし虫歯が小さくて神経の治療をしないとしたら、ただ詰め物をするだけ、普通は1、2回、長くても3回で終わってしまうんです。この5、6回の差はとても大きな差だと思いませんか?それだけ時間と労力とお金がかかってしまうのです。虫歯を小さいうちに治しましょう。早期発見早期治療を、と言われる所以はここにあるのです。そしてもう1つ、神経の治療あるいは根の治療が100%成功することは残念ながらないということも付け加えておかなければなりません。成功率は大体90%ちょっとといわれています。仮に90%としても、10本に1本は失敗してしまうということです。歯科医がどんなに一生懸命やっても失敗してしまうことがあるという現実。これは歯の根管がとても複雑であること、見えない部分を手探りでやるということが大きな理由です。仮にうまくいったとしてきちんと冠が入って終わったとしても、神経を取ってしまった歯は構造的に弱く、今度は歯が割れやすいという問題が出てきます。歯の根が割れてしまったら、ほとんどの場合で抜歯となっちゃうんです。 助けることのできる場合はごくまれです。この歯根破折もわれわれ歯科医を悩ます大きな問題です。
もし根の治療だけでうまくいかない、あるいは再び痛みや腫れが出てきたということになれば、また再治療、それでもうまくいかなければ今度は外科処置の適応になります。この場合、根から入ったばい菌によって根の先端部にのう胞や肉芽腫といった炎症組織が作られていることが多く、これを外科的に取り除くことが主な治療の目的となります。具体的には歯根端切除術といって骨の外側から穴を開けて根の先端を切り落としてのう胞ごと取り出す手術か、歯牙再植術といって一度その歯を抜歯してのう胞を取り出し、そして根の先端をきれいに封鎖してからまた元に戻す手術が行われることになります。どちらも外科的な処置ですので傷が治るまで2、3週間かかります。また一般的には大臼歯には向かない手術ですから、奥歯がひどい虫歯になってなかなか根の治療がうまくいかないときには、最悪の場合抜歯ということになってしまいます。